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雑記

貴重品以外も貴重だったのに、どうして盗んじまったんだ?

中学生のとき、私を含めた部活動のメンバーほぼ全員が盗難に遭うという事件があった。

私が所属していたのはバスケ部。
その日は近隣高校のコートを借りて練習をするというスケジュールだった。

授業が終わると一度、いつもの体育館に集合し、荷物を置いていく。
顧問の先生が「貴重品だけはもっていけよー」とアナウンスをしたのだが、
小さな荷物が増えるのを面倒がった私たちは、「はーい」といいつつ言うことを聞かなかった。

「俺ら中学生からモノ盗むやつなんていねーだろ」と私は仲の良い部員に笑いかけていた記憶がある。

そしてその日の練習は何事もなく終わったのだが、
その翌朝、学校にさあ出かけようというとき私は異変に気付いた。

愛用していたiPodがないのである。
本来、学校に持っていくと没収されるものなので、先生に目撃される恐れの少ない、
家を出てから最寄駅に着くまでの時間のみ音楽を聴いていた。

そのiPodがない。
私はてっきり家の中で失くしたのだと思い、あちこち探して回った。
カバンの中はもちろん、机のあらゆる引き出しだのなんだの探して回ったが、無い。
こういうときの切り札であった、「ベッドと壁の隙間」にもなかった。

これはどうやら家では無いかも、と思い、
学校の落し物コーナーを見にいった。
が、やはり無い。

これが定期券や財布などなら先生に相談できたが、iPodという「持ってきてはいけないもの」である以上それができなかった。

数日間いろんな場所を探し、「もう一度家をしっかり探そう」と思っていた頃。
部活が始まる前の時間、
部員の一人が「最近〇〇を失くした」と言うと、他の部員も「俺も〇〇が無い」「俺は〇〇」と次々に打ち明け始めた。
ある部員は財布の中身、ある部員は時計だった。

そして、同じ日からそれぞれ物がなくなっているという情報が共有されるほど、これが盗難であるという確信に近づいて行く。

ついに部員の一人がそれを先生側に相談し、「盗難の集団被害」として認められた。

その後、顧問の先生から、それぞれ何を盗まれたかのヒアリングがあった。
私は、本当のことを言えば校則違反を自白することになるので少し迷ったが、
結局正直に「iPodを盗まれました」と伝えた。

顧問の先生は、少しだけ間を空けたあと、「わかった」と答えた。

この一件について説明できることは以上であり、
犯人はついに判明しなかった。

一つ言えることとして、いくら私たちが中学生という未熟な年齢だったとしても、
「持っていけ」と言われて持って行かなかったのは自分たちが悪い。

それでも顧問の先生は、そのことに大変大きな責任を感じていたと聞いた。
まあ、私が先生の立場でも同じ心境であったと思う。

結果的に、「俺ら中学生からモノ盗むやつなんていねーだろ」という私の発言は綺麗なフラグとなってしまったわけだが、
当時の私たちは、貴重品という言葉へのイメージがはっきりしていなかったのだと思う。

お金が大きな価値あるものというのは当然認識しているが、自分で稼いだわけでもなく、時計などの私物だって親に買ってもらったものである。
その大体の値段だって考えたことすらなかったりする。

だから我々にとっての貴重品というのは、
「金銭的価値の高いもの」ではなく、
普段よく使うものか、思い出の品、くらいのイメージだったと思うのだ。

人生、何に価値を感じるかは人それぞれなので、「貴重品」の定義は決められないが、
大人になると大抵「金銭的価値の高いもの」のニュアンスで認識するようになる。

しかし、なにより思い出のつまった品を失った時のダメージは時に、
心に大きな穴を空けてしまうのである。

貴重品以外も貴重だったのに、どうして盗んじまったんだ?