ある日「友達に戻ろう」
嫌いじゃないならなんで
月おぼろ – (神門/初恋 より)
神門 – 「初恋」
神門(ごうど)、兵庫県神戸市出身のラッパー。
そのラップのスタイルだが、
押韻やフローをあまり重視せず、語りに近い「ポエトリー」調であることが特徴である。
今回は2012年リリースのアルバム「上弦下弦」の収録曲、「初恋」を紹介したいのだが、
バラードといえる本曲、あまりにもシンプルなビートの上で淡々と言葉が語られていく。
初めてできた彼女(=初恋の相手) に向けた思い出を語る。
J-pop界でよくあるような、
「ストリングスが大量に鳴る中、
AメロBメロと来てサビでぶわーっ、を何回か繰り返して5分半くらいで終わる」
のような展開のわざとらしさもなく、本当に淡々と。
だが、進む一秒ずつがそのままパズルのピースひとつずつかのように、
浮かぶ情景が徐々に完成されていくのだ。
そして出来上がる絵はどこぞの景色ではなく、
自らの思い出を映している。
あなたの性格そのものが彼女って生き物の性質と
頭の中インプットしてく日々
8mmフィルム描写するスクリーン
あなたがわがままいうと 彼女ってわがまま言う人のことをいうと
そんなふうにして俺は彼女がなんたるかってことを覚えた
全てをかけて愛した人よ
俺は全てをかけ終えちまったよ
ゼロから人を愛す力も
あなたにで使い果たしちゃったよ
hiphop曲ならではのワードの多さだが、
つい全部引用したくなるくらい良いリリックの曲である。
夢中になっている人間、言い換えれば渦の中にいる人間というのはまわりが見えなくなっていて、終わってから振り返るとひどい目に遭ったように思えたりもする。
しかしそんな中で見た景色や温度感、感じたものを外へ持ち帰れるのが良い表現者である。それがはっきりとわかるのがこの曲だった。
そして冒頭引用のフレーズ、
ある日友達に戻ろう
嫌いじゃないならなんで 月おぼろ
まあフラれてしまっているとこはともかくとして、
この押韻がやけに印象に残っている。
正直これが「かっこいい」かはわからない。
いや、失礼ながらかっこよくはない。
しかし恋の終わりの力なさを表現するにはこの脱力感があったほうがよいかもしれない。
「おぼろ月」なんて、センチメンタルの象徴のようなワードである。
最後に添えるだけでフレーズ全体に情緒をもたらすなど、反則的テクだが、
実際私の心は揺さぶられてしまった。
駅弁食べながらイヤフォンで音楽聴いてたら「月おぼろ」という歌詞が出たので心の中で「これはそぼろ」と唱えた pic.twitter.com/ZDzAq4FdHE
— 岡元 望 (@okagen_key) April 19, 2019
本当に素晴らしいこの作品、アルバム通して必聴である。