さとうもか「melt bitter」
めちゃいい。
本曲、「もういいって!」というくらいtiktokやyoutubeのshort動画などで使われている。普通これだけ聞かされたら嫌になるものであるが、ならない。
なぜってこの曲がめっちゃいいからである。
私に夢が無かったら
もしもあなたと同じ夢を見てたら
もしかしたら今でもふたりは
当たり前に 決まってたように
一緒に居られたかな なんてね
未だに考えてしまうんだよ – (さとうもか「melt bitter」より)
BGMとして切り取られているのは大体この歌詞の部分であるが、
夢があったことを後悔する歌詞がJ-pop界にあったか?
自分の夢が叶わないとか、あなたの夢についていけないとかじゃないのだ。
面白いのがこれ、「私に夢があったら」に変えるとすごく平凡になる。
私に夢があったら
もしもあなたと同じ夢を見てたら
もしかしたら今でもふたりは
当たり前に 決まってたように
一緒に居られたかな なんてね
未だに考えてしまうんだよ
別にこれでもおかしくないが、「なかったら」(=二人ともに夢がある) の方が自分は好きだ。「夢がない私(僕)が、夢追い人の君を追いかける」構図だとちょっと古く感じる。
一方がもう一方を追いかけるのではなくて、二人で並んで歩こうとした。でも、上手くいかなかった。そんな関係を描いている。
これは想像だが、恋人同士互いに夢を持っていて、
方や、愛する人と静かに暮らすのが夢
方や、ミュージシャンになるのが夢
なんかだったとすれば、「私」は後者側だろうか。
平々凡々な夢であれば、それ自体を後悔することなんてなさそうだから。
私の痛い気持ちを
ふたりのものだと勘違いしていた
抱きしめなきゃ なにも分かんないのに – (さとうもか「melt bitter」より)
相手が今どう思っているか、確かめる術はないが
「確認するまでもなく、気持ちが通じ合っている」と信じることでいくらか人間は心を満たしている。
盲目的ともいえるが、みんなやっている。
でも、それが思い込みだったとわかった瞬間、ひどく傷つけられる。
感じていた幸せとか充実感が一気にひっくり返り、ダメになる。
これもまた、多くの人が経験することなのだ。
「みんな経験があるし、みんな思ったことがある、けど言葉にはできなかった感覚」、それをうまく言語化する。
名ラブソングの条件ともいえる部分をこの曲はズバズバついてくる。
そこにこのうねるようなコード感、
力が抜けるようで、でも懐かしい電子音の音作りが重なって、
息継ぎをたくさん要するボーカルメロディが焦り逸る気持ちにシンクロする。
名曲になるに決まってる。
事実、この曲が1900万回(2022/10/19現在)再生されてもなおリピートされ続けるのは、
それに耐えうるだけの厚みがあるからに他ならない。