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音楽コラム

映画の暗い結末だって、笑いながら作られる (星野源 – フィルム) 歌詞 / 感想

 

わけのわからぬ ことばかりだな心は
画面の事件 どこまでほんとか                                   (星野源/フィルム より)

そうだ。ほんとそうなんだ源さん。
自分の心はコントロールできないし何が起こってるのかすらわからない。
そんでテレビやネットも色んな人が色んなことを好き勝手言いすぎてなんだか疲れる。

好きなアーティストに「言い当てて」もらえることは幸せである。

 

 

星野源フィルム

「フィルム」は2012年にリリースされた2ndシングルである。

次の3rdである「夢の外へ」がストリングスなどふんだんに盛り込んだ作品であると考えると、album「エピソード」を代表とする「音数少なめのバンドサウンド期」、最終盤の作品といえるかもしれない。

この期の曲の良さとして個人的に挙げたいのが、「寝る前や心に余裕がない時でも聴けるバンド曲」というところだ。
人にもよると思うが、ずーんと暗い気持ちの時、どんなに好きな曲であっても賑やかなバンドサウンドのものは聴けない。(他記事でもそれについて書いた)

その賑やかさがただの「やかましさ」にしか感じられないのだ。

いくらカツカレーが大好きでも、風邪でぐったりしてるときには食べられないのと同じ。そういうとき、私にとって「おかゆ」的役割になるのは弾き語りやピアノインスト曲なのだが、この期の曲たちはドラムがあっても、全体的なサウンドの仕上がりがじんわ〜りとしているので安心して聴ける。料理で言うなら何になるかはちょっと思いつかなかった。

そんな期を象徴する様な「フィルム」だが、その魅力はもちろんサウンド面だけではない。
この曲を聴いてまっさきに印象に残るのは、多くの人がきっとサビ部分の歌詞だろう。

 

どんなことも 胸が裂けるほど苦しい
夜が来ても すべて憶えているだろ

声を上げて 飛び上がるほどに嬉しい
そんな日々が これから起こるはずだろ (星野源/フィルム より)

あれ?おれの悩み相談への返答?というくらい言い当てられているし、同時に希望を与えてくれる。
悩んでいたり、今苦しいという自覚がないときでも、このサビの部分だけで少し涙が出そうになったりするのだ。

そして、曲はサビから2番Aメロへ。

わけのわからぬ ことばかりだな心は
画面の事件 どこまでほんとか

どうせなら 嘘の話をしよう
苦い結末でも 笑いながら そう作るものだろ (星野源/フィルム より)

本記事冒頭で紹介した歌詞の続きになる。

「何が真実かわからなくなったり、全てが疑わしくなってしまったり。
だから、嘘の話をしよう

ここでいう「嘘」はつまりなんのことか。
私は「想像」や「妄想」と置き換えるのが一番好きだ。

想像というのは限りなく自由なもので、
自分が監督、脚本の映画を撮るようなものだ。

 

「声を上げて 飛び上がるほどに嬉しい」ようなハッピーエンドを思い描くのもいい。
逆に、バッドエンドを描いたって構わない。

だって、もしとんでもないバッドエンドの映画があったとして、その制作陣たちは
「最後、主人公と恋人両方崖から落としたあとサメに喰わせちゃおうぜ! ギャハハ」と盛り上がっているかもしれない。

暗いストーリーだからって暗い顔をしながら作っているとは限らない。

そう、所詮は想像であり、作り物であり、架空であり、幻なのだから、
ストーリーは笑いながら作ってしまえばいいのである。
それが「胸が裂けるほど苦しい」ようなバッドエンドであったとしても、あくまで、楽しく。

 

 

星野源は「嘘」や「想像(妄想)」を肯定するフレーズが時折みられる。

真っ先に思い浮かぶのは「地獄でなぜ悪い」より以下。

嘘で何が悪いか 目の前を染めて広がる
ただ地獄を進むものが 悲しい記憶に勝つ              (星野源/地獄でなぜ悪い より)

 

 

もっと直近の曲ではこちらなど。

目下走り出そうぜ 物作る冒険
あり得ないさ 全ては馬鹿げてた妄想     (星野源/創造 より)

 

 

想像や妄想というのは、現実世界に向き合うのとは真逆の行動である。
現実逃避、なんて言葉があるがその「逃避」が星野源の世界では肯定されている。

確かにそうだ。
辛いことで頭がいっぱいのとき。その種となっていることについて悩み通して気が楽になった試しなど一度もない。

大抵、他のことで気持ちを上書きするしかなかったのだ。
ちなみに私はよくラーメンズのコントを見ていた。
それが私にとっての逃避であり、想像世界へのダイブだった。

 

話が逸れてしまったが、
「胸が裂けるほど苦しい、今」から逃げる方法を示し、肯定してくれるこの曲は、
私にとって希望そのものである。源さんの曲の中では一番好きだ。

だから本当はこの曲の魅力ももっと語れる。
サビの一つ目のコードが独立して弾くと衝撃的に不気味な響きをしていることとか。
本当に色々あるけど、好きなのは十分伝わったと思うので、ここらにしようと思う。