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音楽コラム

鳥貴族で「ぼくたちの失敗」が流れていた  (森田童子 – ぼくたちの失敗) レビュー

 

春のこもれ陽の中で 君のやさしさに
うもれていたぼくは 弱虫だったんだヨネ      -(森田童子-ぼくたちの失敗)より

鳥貴族の有線から突然この曲のイントロが流れ、驚きのあまり私は箸を置いてしまった。
ボワ〜っと、そしてじんわりした音色のピアノが響く。

森田童子 – ぼくたちの失敗 (1976)


(リンク先で視聴可)

私がなぜ驚いたか、この曲を知らない方に説明するならば、
居酒屋のBGMには最も選ばれにくそうなイメージだった為である。

居酒屋で流れている曲といえば、もっと明るくてノリの良さそうなものをイメージする。
実際、これが流れるまではサザンとか、あととんねるずの「一番偉い人へ」とかが流れていたのだ。

それらの曲に比べると、「ぼくたちの失敗」は対にあるような存在である。
演奏は歌とピアノのみ。内省的な歌詞を一つずつ拾うように丁寧に歌う。
そして音全体に大きめのリバーブがかかっていて、なんだか気持ちよく、そして眠くなる。

まあなんにせよ、わいわいしたシュチュエーションで聴く曲では絶対にない。

そんな曲が居酒屋で流れたなら驚くだろう。
もちろん私は驚いた。ただ、同時に少し嬉しくもあった。

というのも、ボーカル森田童子とその楽曲が「暗い」と言われるのが腑に落ちなかった為だ。「ぼくたちの失敗」もよく陰鬱とした曲だと言われたりする。

 

 

私は、この曲に初めて触れた時から「暗い」とは全く思わなかった。

君と話し疲れて いつか黙りこんだ
ストーブ代わりの電熱機 赤く燃えていた

地下のジャズ喫茶 変われないぼくたちがいた
悪い夢のように 時がなぜてゆく              -(森田童子-ぼくたちの失敗)より

 

やるせなさや不甲斐なさ、根拠のない無力感は、皆の心の中にあるものである。
特に若者である「ぼくたち」の中になら、特に。

これは心が冷めている故に感じるものではない。
むしろ人間くささの最たるところであるから、
冷たいでも熱いでもなく、限りなく人肌の温度を纏った感情なのである。

どうしようもないなというような暗い曲も私は好きだし、
ちょっと離れて欲しくなるような熱い曲も好きだ。

その二つとは別に、「体温に近い安心感のある温度」の曲があると思っており、
本曲は私の中でそこに収まっている。

過去に本サイトで紹介した曲では、
これこれなどが近いと思うが、まあ他にもあるだろう。

このジャンルの曲は明るくも暗くもないと思う。
ただ、まあ曲のローテンポさや内省的な歌詞を見ると、「ぼくたちの失敗」に関してはそう言われても仕方ない、と思っていたが、
まさか鳥貴族で流れるなんて。

これは私が作った曲でもなんでもないが、どこか一つ認められたような思いで嬉しかったのだと思う。

帰りの電車の中でも、これを聴きながら帰った。