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音楽コラム

「そーいやっさ そいやっさ」がtik tokからFIRST TAKEへ。2021年、ブレイクの軌跡を追う (MAISONdes – ヨワネハキ feat. 和ぬか, asmi)

 

そういやさ そういやさ
昨日の私もこうだった

(【102】[feat. 和ぬか, asmi] ヨワネハキ / MAISONdes より)

 

tiktokで一躍知名度を上げた本曲。

【102】[feat. 和ぬか, asmi] ヨワネハキ / MAISONdes

どこがアーティスト名で曲名なのかさっぱりである。
気になる答えは、

曲名:「ヨワネハキ」
歌:asmi
作詞作曲:和ぬか である。

動画の概要欄を見ると一応説明があった。

“MAISONdes”は、どこかにあるアパート。六畳半の部屋が沢山。 それぞれの部屋の窓を覗き見ると、それぞれ違う景色が見える様に、 それぞれの住人にはそれぞれの物語と歌があります。 102号室の住人の歌を紡ぐのは、和ぬかとasmi。 是非、覗き聴いていってください。

冒頭の102というのはつまり「MAISONdes-メゾン・デ-」というアパートの102号室。
これが102号室の曲であるように、308号室とか107号室なんかの曲もある。

説明はこれくらいにして、
本曲が多くの人にどういったイメージで認識されているかというと、
「ソイヤッサソイヤッサの曲」であると思う。

なんのことかというと、Bメロの歌詞の「そういやさ、そういやさ」が、
和風の音作りも相まって「ソイヤッサ、ソイヤッサ」に聞こえるというものである。

これは99%意識的なギミックであるが、ユーザーの心を掴む点においてあまりにも大成功である。

 

 

tiktokで流行る曲の条件として、
「フレーズから振り付けが連想しやすい」が挙げられる。

@naenano

みんな両親のことなんて呼んでる?

♬ Yowanehaki – MAISONdes

 

「ソイヤッサ、ソイヤッサ」は言わずもがな、


このへんの踊りを連想するので振り付けもきっとそのような…

と思ったらそうでもなかった。

tiktokでは皆、両手を「いただきます」の状態にして、
右上、左上にスイスイと泳がせている。

なぜこの動きに統一されたかは知らないが、
もしかしてこれは、
サラリーマンがエレベーターを降りるときの「すみません、すみません」の手をイメージしているのだろうか。であれば日本的な精神を忠実に表した見事な振り付けである。

まあなんにせよ、動きをつけたくなるようなフレーズというのは間違い無いだろう。
本曲がバズったのは他でもなくこの「ダンスに適した」フレーズのおかげである。

 

では、本曲の歌詞全体が踊りに適した内容であるかというと、実は真逆である。

弱い音を吐いてる
薄っぺらい人間です
一歩前に出るのはやめときます
絡まれたくはないからさ

描いた理想像に現実味がないから
近づけないよう生きときます
明日も同じよう過ごしときます  (【102】[feat. 和ぬか, asmi] ヨワネハキ / MAISONdes より)

一番のサビの歌詞である。
内容は意外にも内省的で、「ダンスのBGM」らしくはない。

ここが、本曲がtiktok人気だけに留まらなかった理由かと思われる。

ずばり説明すると、
この内省的でシリアス、大変乱暴に言うなら「暗い」歌詞は、
本曲が「踊るためのBGM」に終わるのを留めているのである。

先述のようにtiktokに相応しいのは、踊りやすい曲である。
そこに詩的なリリックや高度な演奏技術などは求められていない。

tiktokのBGMとしてはそれでいいのだが、
youtube(原曲)を聴いてもらうにはそれではいけない

tiktokの動画は再生した途端、すさまじい情報量がなだれこんでくる。
ドンキホーテに入店した瞬間に近い。心がチカチカする。

その中でも「この曲はBGMに留まらない」とどこか感じさせる要素が必要である。

この曲の場合「なんか意外と暗いこと歌ってんな」とそんな具合である。

このyoutubeへの誘導が叶わなかった曲もあるなか、
「ヨワネハキ」はそれが大変うまく行ったと思う。

好きすぎて会いたい / エイトMAN

この「好きすぎて会いたい」、youtubeで聞くと失礼ながら大変ペラペラである。
が、tiktokのBGMとしてはとてもいい。
ゴチャゴチャ余計な要素がなく、スッと入ってくる。

 

この曲は「そいやっさ」ギミックだけによってブレイクしたわけではない。
ただこのギミックが大変強力な「入口」となりファンをドンハマりへと誘導したのである。

最近ではFIRST TAKEにも登場し、「音楽好き」までファン層を広げることに成功した。

tiktokのBGM → youtube原曲 → FIRST TAKE
という誘導の流れはあまりにも王道的で綺麗である。

ワンフレーズからブレイクを掴んだ楽曲は、
「どーるちぇあーんどがっばーなー↑」でお馴染みの 瑛人「香水」や、

「ドラゲナイ」「ダーゴナイ」でお馴染みのSEKAI NO OWARI「Dragon Night」

などが思いつくが、
いずれも現在の国内人気アーティストに堂々と名を連ねている。

今後の和ぬか氏やasmi氏の活動に注目である。