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音楽コラム

清水依与吏のアーティスト的変態性 ~back numberは「王道」じゃない~

 

突然だが以下の歌詞を見てほしい。
back number – 「そのドレスちょっと待った」より引用である。

もしもあの時僕が強がらずに電話をかけられてたら
その鐘を鳴らす君のとなりには
「ドレス似合ってるよ」とニヤニヤする僕がいたのかもしれないね
君は今どんな顔して笑ってるの
どんな気持ちで どんな相手と どんな言葉で誓ってるの  

– back number 「そのドレスちょっと待った」より

どうしようもなく情けない、フニャンフニャンの男心である。
リリースは10年以上前のインディーズ時代だが、
その後ベストアルバムにも収録された人気曲。
何よりライブでは、客が手を上げ飛び跳ねるアップチューンである。

もう一度言うが、この曲で何万という観客が踊り、跳ねるのである。
これはよくよく考えれば恐ろしい事実である。

と、いうのもこの歌詞はあまりにも個人的かつ内省的だからだ。
マイクに乗せて皆に届けるような内容というよりは、
自分しか読まない日記に書いたり、せいぜいベロベロの居酒屋でつい友人に零してしまうような内容である。

そう、本来は誰かに伝えても「知らんがな」と言われる内容なのである。
それを武道館やアリーナまで持っていったback numberもといvo&Gtの清水 依与吏は紛れもなく実力者であり、同時にアーティストとしてのエゴイズムを持っている。

そもそもラブソングというのは、
「あなたが好き」「あなたを忘れられない」あたりの内容がほとんどであり、
これらを伝えるのが目的であるならその当人にだけ歌えば済む話である。

これについては過去記事でも書いたのでぜひ。⇩

しかし、恋愛相談というものがあるように、第三者にも聞いてほしくなるのが人間の性である。「知らんがな」と思われつつも、まわりに話したいのだ。

その「まわり」を国民全体まで広げたのが彼らである。

注意として、
彼らは国民的アーティストだが、国民全員がファンなわけでは当然無い。
曲を聴いて「知らんがな」と思ってそれ以来帰ってこなかった人もいるだろう。

しかし!
本来心に閉まっておくような恋愛話を国民全体まで一度は届けたのである。
こんなナルシストかつエゴイストは他にいない。もちろん褒めている。

 

 

なぜ今、多くの人を救うのか。 back number 「水平線」配信開始

上記記事でも書いた「水平線」MVが一億回再生を記録したback number。
昨日、9月29日にはnew single「黄色」がリリースされ、
27日公開のMVもすでに140万再生を越えている。

back number – 「黄色」

交差点で君を見付けた時に
目が合った瞬間で時間が止まる
信号は青に変わり 誰かの笑う声がした
まだ私は動けないでいる

これ以上 心に君が溢れてしまえば
息が出来なくなってしまう
今は硝子の蓋を閉めて       

– back number「黄色」より

「水平線」も然り、ここ数年リリースの曲では、
インディーズ時代のような個人的で内省的な歌詞は見られなくなった。

事実彼らのリリース曲はほとんどがタイアップ曲であり、
楽曲のテーマなどもある程度決まっていることが多いのだろう。

流石に、「あの時電話してたら元カノとは今頃…」
なんて歌詞を映画のエンドロールで流すわけにはいかない。

こういった変化はback numberに限らず、「ブレイクしたミュージシャンあるある」で、
売れるにつれて歌詞が普遍的で差し障りのないものへと移ろっていく。

私を含めたファンが「初期はよかった」という決まり文句を吐きたくなってしまうのには、
その変化に対する寂しさが関わっているのだろう。

 

 

最後になるが、

back numberは、その女々しさのある歌詞が特徴であった。
最初は「うええ」と思いながらも必ずどこか思い当たる部分があったから、また聞こうと思う。

そういった意味では、清水 依与吏は「発明家」ではない。

誰も思いつかなかったような唯一無二のフレーズを生み出し続けるタイプでは無いが、
皆に心当たりのある気持ちを上手く言語化するセンスと、
それを赤裸々でもなく堂々と発信していく姿勢がback numberをここまで成長させた。

彼の使う言葉に、我々を置いていくような無責任な複雑さはない。
今一番、「言葉で寄り添ってくれる」アーティストがback numberである。